アイルトン・セナが死んだ。このニュースは当初、誰も信じることができなかったに違いない。セナは確かに極限ギリギリのコーナーワークを見せ、常に死と隣り合わせのドライブをしていた。しかし、それを可能とする強い精神力と常識を越えたテクニックを持ち合わせていたことは誰もが認めるところであろう。このことがいつしか私たちに「セナにかぎってレースでは死なない」という虚像をつくりあげた。

14:17 タンブレロコーナーに激突
15:00頃 ヘリコプターによりボローニャのマジョーレ病院に到着
15:10 脈が再開
15:50 担当医マリア・テレサ・フィランドリ女医が会見し、手術の可能性を否定
17:00 医師団による記者会見でレントゲン結果報告があり、脳死を確認
18:15 病院の司祭アメデオ・ズッフォがセナの病室へ
18:40 フィランドリ女医がセナの心臓停止確認
19:45 アイルトン・セナ死亡

この事故の原因はいまだに解明されていない。しかし、彼のドライビング・ミスによって引き起こされたものではなく、何らかの外部的な要因が原因であると信じたい。

スターティング・グリッド上でスタートと同時にクラッシュしたラミーのロータスとレートのベネトンの破片は全て片づけられセーフティー・カーがやっとコースを離れたとき、再スタートが切られた。

このとき、セナは2番手のシューマッハを後方に従えてトップを走っていた。6周目。ピットの前のストレートを全速で駆け抜けるセナは、5速から6速へとシフトしてタンブレロ・コーナーに飛び込む。すべて正常で、何事もうまくいっているかに見えた。そのとき、突如としてコントロールを失ったウィリアムズのFW16を駆るセナがタンブレロ・コーナーのコンクリート・ウォールに激突した。タンブレロ・コーナーに突入したのはスタートラインを通過してから11秒後、そしてコンクリート・ウォールに激突したのがスタートラインを通過してから12.8秒後、このわずか1.8秒間に何が起こったのか?

The Senna car accident | Cineca
https://www.cineca.it/en/content/senna-car-accident

セナ裁判においてウィリアムズ・チームなどを過失致死の容疑で起訴したのはボローニャ検察局であり、この事件を担当したのがマウリツィオ・パッサリーニ検事である。担当検事のテクニカルアシスタントを務めたイタリアの研究機関『CINECA(イタリア計算機センター間大学コンソーシアム)』がテレメトリーデータとセナとシューマッハの車載カメラの映像を組み合わせて解析した。それが次の動画である。

動画のテレメトリーデータは判然としないが、CINECAのサイトではグラフの鮮明な画像も公開されている。

Telemetrie | Cineca
https://www.cineca.it/it/content/telemetrie

これらの解析データなどに基づき『複合事故――アイルトン・セナ・ダ・シルバは、なぜ死んだか』は以下のような分析をしている。要約すると以下のようになる。

セナの駆るウィリアムズFW16はスタートラインを通過して11秒経過した時点のスピードはおよそ310km/h。トラブルはそのすぐ後の瞬間に訪れた。

セナがタンブレロ・コーナーにさしかかったとき、ウィリアムズFW16に搭載されていたブラックボックスのメモリー・チップは、いきなりステアリングの油圧に異常があることを記録。この事態がマシンのコーナーリングにどのような影響を与えたかは分からないが、確実なことは、セナはこの瞬間にマシンの異常に気づいていた。

セナはマシンのコントロールを取り戻そうと減速するためアクセル開度を50%減少させたが、その瞬間こそ悲劇の始まりであった。ウィリアムズFW16はすでにコントロール不可能な状況だったのである。信じられないことだが、セナはその事実に0.2秒で気づき、緊急手段を実行している。アクセルを完全にオフにしてフル・ブレーキング。できるだけ鋭角にコンクリート・ウォールへ激突しようとステアリングを回し、みずからスピン状態をつくろうとしている。

しかし、この操作は全く意味を持たなかった。残されたデータは、ステアリング系統に何らかの異常が発生したことを示唆している。セナがステアリング・ホイールにかけた力は異常に弱く、均等な操作入力を示している。それはあたかもセナがそれほどステアリングを回していない、もしくはステアリング・シャフトが破損しているために、ステアリング操作が前輪に伝わっていないかのようなのだ。それとは逆にパワー・ステアリングの油圧は、一瞬均等な値に戻るが、急激に異常な数値まで上昇しており、不可逆的な故障を示している。このときのブレーキングの力、減速度は4.3Gと公表されている。実際テレメトリーのデータから1秒後、210km/hまで減速していることが確認できる。フルブレーキングによって、セナはコースを外れると同時にタイヤをロックさせてしまい、そのためホイールにとりつけられた速度センサーは正常な計測を行わなくなってしまう。

しかしクラッシュ寸前、センサーは再び正常に計測を行うようになる。だが、その時点でコントロールを失ったウィリアムズを止めることはもはや誰にもできない。マシンはコンクリート・ウォールへと突進した。

以上のような分析を読んだ時、衝撃が走った。1.8秒という極めて短い時間の中で最後の戦いが繰り広げられていたのである。レース開始から6ラップ目にフィニッシュラインを通過して12.8秒という時間が経過した時点で、マシンのすべてのセンサーはメモリー・チップへのデータ通信を停止。ウィリアムズFW16は、コンクリート・ウォールに210km/hの速度で激突し、サスペンションのパーツがセナの頭部を直撃し、結果的に偉大なチャンピオンドライバーを殺してしまったのだ。

セナが最後まで戦った証拠。残されたグラフは、彼が自身のドライビング・ミスではないことを語りかけているのではないだろうか。

Tamburello
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